映画「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」エピソード1:日記(自分史)の力

映画「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」は一つの映画とはいえ、織り込まれたエピソードが素晴らしいので数回に分けてご紹介します。

今回のエピソードは「日記(自分史)の力」です。

ストーリーを書いてしまうと観た際に面白くないので、エピソードにだけ触れていきます。まどろっこしいと思う人は早く映画を観てみてください。

ハリケーンがやってくるニューオーリンズの病院で、臨終の時を迎えようとしていたデイジー(ケイト・ブランシェット)に、一人娘のキャロライン(ジュリア・オ-ーモンド)が寄り添っています。ハリケーンの襲来への準備にニューオーリンズの病院は火事場のような状況でした。

しかし、そのような状況の中で余命幾ばくもないデイジーはキャロラインに分厚い日記帳を取って、ベッドサイドで読み上げるように求めます。その日記帳には多くの手紙と写真が挟まれていました。その日記は今は亡きベンジャミン・バトン(ブラッド・ピット)のものであり、実質的な遺書だったのです。

目的がわからず読み上げ始めたキャロラインは、日記によってベンジャミンとデイジーの人生の物語を初めて知ることになります。世界中を放浪したベンジャミンの行動はその日記がなければわからかなったでしょう。デイジーとの関係も克明に記載されていました。

そして、しばらく進むと、なんと、ベンジャミンがキャロラインのことについて書いているのです。そこで、キャロラインはベンジャミンが自分の実の父親であったことに気付きます。キャロラインは、それまでデイジーと再婚した男性を父親だと教えられていたのです。死ぬ前にデイジーはそのことを知らせておきたかったのですね。そして、日記に挟み込まれていたベンジャミンからキャロラインに誕生日ごとに送られてきた手紙を読んで涙を流します。母の臨終の時にはじめて本当の父親とその愛情に接したのです。

デイジーはベンジャミンの日記を最後まで娘のキャロラインに読み上げてもらい、ベンジャミンと自身の人生の振り返りをするとともに、キャロラインにその想い出を遺すことができました。

そして、デイジーはハリケーンの中にもかかわらず、安堵した面持ちで息を引き取るのです。Happy Ending !

 

IMG_1696長い人生の軌跡は口頭で簡単に伝えられるようなものではありません。ましてや病院のような落ち着かない所では…

しかし、日記(自分史)によって、ベンジャミンとデイジーのストーリーはキャロラインに繋がりました。

それだけではなく、日記が原作の小説と映画の脚本であり、ベンジャミンとデイジーのストーリーは入れ子でもあるのです。

そのように考えると、様々な人のスト-リーが織りを為して人間模様と歴史を作っているので、そこに穴を開けるわけにはいきませんね。

ストーリーを書き残すことの意味合いを深く感じさせるエピソードです。

しかし、それでも映画のラストシーンは逆回りする時計が水で流されていくのです。時のながれに抗しようとする人の姿が逆さ回りの時計だったのでしょうか。

齋藤真衡

Happy Ending カード No.  I-3「自分史のすすめ」

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