密室の中で自分の意思を無視される兵士の物語ですが、現代の病院や施設の中でも起こりえる事態です。
第一次大戦に出征したアメリカ人兵士のジョニーは、近くで炸裂した砲弾によって両手、両足、視覚、聴覚、臭覚、咀嚼能力、言語までも失ってしまいました。
胴体と頭だけになり、包帯でぐるぐる巻きにされて、病院のベッドに横たわります。
彼には明確な意識がありましたが、それを伝える手段が残されていません。外部とのコミュニケーションを取ることができず、ただ生ける屍のように横たわっているだけでした。
到底意識があるとは思わなかった軍医や看護師は、彼を植物人間として扱っていました。
しかし、ある日新任の看護師がジョニーの胸に指でMerryXmas!と書いたのです。それにジョニーは反応します。看護師も反応するジョニーに気付きます。そして、ジョニーはやっと、外部とのコミュニケーションの手段に気付きました。
それはモールス信号です。
その後、ジョニーは看護師に対して頭を枕に打ち付けてモールス信号を送ります。看護師はモールスを理解できないものの、なんらかの意思表示であることを理解して軍医らを呼んだのです。
モールス信号を理解する兵士がやって来て、その信号を解読しました。そこで彼が要求したのは、なんと「殺してくれ!」でした….
延命装置を外して欲しいとの本人の意思表示だったのです。
自殺することもできない彼は他人にそれを頼むしかありませんでした。
唖然とする軍医たち….
意識があると思わなかった軍医らは自分たちの立場が悪くなることを恐れてジョニーの希望を無視します。ジョニーは一人そのまま病室に放置されて絶望します。
その後、その様子の一部始終を見ていた看護師は、彼の生命維持装置を切断して彼の希望をかなえようとします。泣きながら….
しかし、丁度その時、軍医が病室に入って来て事態を把握して、看護師を追い出してしまうのです。そして、軍医は再度生命維持装置を繋げたのです。
その後、ジョニーは暗い病室で「S・O・S」を打ち続けます。
ジョニーの状態は尊厳死の条件である「不治」かつ「末期」であるかどうかは微妙なところです。
しかし、その意思表示の重要性を改めて感じさせる全くHappy Ending ではないラストでした。
本人だけの意思表示では密室で無視される可能性があり、自分の意思の代弁者がもうひとり必要なのです。
齋藤 真衡
<Happy Ending カード No.E-4 尊厳死・リビング・ウィル>