「深い河」遠藤周作

「わたくし……必ず……生まれ変わるから、この世界のどこかに。

 探して……わたくしを見つけて……約束よ、約束よ」

と言い残して末期がんの妻啓子は旅立ちました。

葬儀が終わり、夫磯辺が妻からあとで見るように言われていた黒革の小さな手帖を開いてみると、夫の衣服、貯金通帳・印鑑をしまってある場所、困った際に相談すべき人等々…自分が死んだあとの夫を心配してこと細かに記載されていました。

涙で目が霞んで頁をめくれない夫。さらに啓子は自らの生まれ変わりについても書いていました。

 

啓子は病室から見える樹齢200年の銀杏の巨木との対話について、磯辺に語っていました。銀杏は自分に命は決して消えないと言っていたと。

513R878FTZL木の寿命は何年?

セコイアは2500年という説もあるようです。木は年輪の数だけ歳を取っていると言われています。

ところが、別の見方もあるようです。木の年輪の内側の細胞はほとんど死んでいて、生きているのは樹皮と最も新しい年輪の間の形成層だけだというのです。そういえば、中が空洞になっている倒木もありますね。

木の内側は既に死んでいて、その上に新たな形成層が生まれているとすると、今まで一つの生命のように見えていた一本の木ですが、実は一本の木の上で年輪の数だけ世代が交代していたと考えることもできます。

啓子と語った銀杏の木は自分自身も何回も死んで、その上に新たな層を造って生きている。そのことを言ったのかもしれません。年輪は木の世代を現していたのです。そして啓子はそれを聞いて、命は決して消えないと信じた。

黒革の小さな手帖に込められた妻啓子の夫への想い。銀杏の巨木との対話による転生への確信。それが、転生した啓子を探すという約束を果たした夫にガンジス川のほとりで行き会わせたのです。

様々な人物に広がる死生観の世界。読み応えのある一冊です。

齋藤真衡